· 

仏典童話 「悪いことをした「イヌ」はだれなのか」

※仏典童話
「悪いことをした「イヌ」はだれなのか」
 
むかしのお話、ボーディサッタ(お釈迦様)が前の世の因果の関係でイヌに生まれ変わり、何百というイヌ達を従えて山の上に住んでいた頃のお話。
 
ある日、その国の王様が警護の者を連れて別荘で遊んでいました。
王様には、お気に入りの馬と馬具、そして馬車がありました。
 
けれども、別荘で遊んでいる間、お城につないでいる間、何者かに馬具は食いちぎられ、馬車が荒らされてしまったのでした。
 
警護の者が王様に言いました。
「王様、町の野良犬たちがもぐりこんで、馬車を荒らしていたそうです。」
 
王様はそれを聞いてたいそう腹を立てました。
「みつけしだい、イヌどもは殺してしまえ!!」
と言ったのでした。
 
町のイヌ達は、次々に捕らえられ、殺されていきました。
 
そして、安全な山のところに大勢のイヌたちが避難してきました。
イヌのかしらのボーディサッタは、
「これは、いったいどうしたことなのだ」
と言うと、イヌ達は事の次第を説明しました。
 
そして、かしらは思いました。
(あんな厳重な城の見張りをぬって、侵入してイタズラをできるわけがない。あの城の中にもイヌ達がいたはず。
それが咎められず、この者たちだけが殺されていいはずがない。
私が止めに入らなければ・・)
 
「心配することはないよ、私がお前たちの命を助けてあげる。」
そういってお城に乗り込んでいきました。
 
警備の者は、かしらに石を投げつけ、棒を投げつけ殺そうとしました。
しかし、かしらは「凛」とした姿で王様のもとへ、ゆっくり歩いていきました。
しだいに、警備の者たちも黙って道を開けていったのです。
 
そして、王の前にきて言いました。
「王よ、話は聞きました。
あなたは、馬車を荒らした者がイヌ達だと思っているそうですね。
そのために、すべてのイヌを殺せ!と命令された、と。」
 
「そのとおりだ。」と王様は言いました。
 
「しかし、矛盾しているところもあるのではありませんか。
イヌはすべて殺せ!と言っているのに、お城のイヌ達は何もされておりませんね。」
とかしらは言いました。
 
王様は、
「ワシのイヌ達は問題ない。ワシのイヌがそんなことをするはずはない。」
 
かしらは言いました。
「王者が物事に裁きを下すときには、はかりの竿のようにどちらにも偏らないものでなければなりません。
今のままでは、無力なイヌだけが殺されているのですよ。」
 
「王よ、いま一度言いましょう。あなたのされていることは正義に叶っていません!」
と響きのよい声で王様に心理の言葉を伝えました。
 
王様は少し考えて言いました。
「知恵のある者よ。では、そなたは犯人がだれか分かる、というのか」
 
かしらは、
「分かります。犯人は、お城のイヌ達です。
そして、その証拠も見せましょう。ここにつれてきてください。」
 
そういって、イヌ達が連れてこられました。
そして、かしらは草をすり潰してバターミルクにまぜて飲ませるように指示したのです。
 
それを飲んだイヌ達は、すぐに吐き出し、一緒に馬具の皮のきれっぱしも吐き出したのです。
 
王様は、
「なんと、すべてを見通したかのようなその言葉・・。」
 
王様は、心から尊敬の意を表して、かしらからたくさんの教えを受けました。
国民にはすべての生き物を大切にするように命じ、命を終えた王様は天上界に生まれ変わった、という話です。